
「毎月第1金曜日の夜」
これを聞いてあなたはピンとくるものがあるでしょうか?
日本中の子どもたちがドラえもんの毎週の放映時間を知っているレベルで、FXトレーダーなら絶対に知っているべきものが「米雇用統計」であり、その発表日時が毎月第1金曜日の夜です。
為替相場が大きく動くタイミングには必ずその背景に何かがある。
毎月第1金曜日に発表される雇用統計はその一例であり、世界中にはそんな経済イベントが日々行われるのです。
とくに雇用統計を含め「経済指標」というのは、為替相場のファンダメンタルズを理解するのに超重要なので
今回は経済指標で相場が動く仕組みと、注意するべき経済指標をピンポイントでお伝えできればと思います。
なぜ経済指標?
そもそもなぜ経済指標がFXの成績に大きく関わるかというと、経済指標によって金利や株が大きく動く可能性が高いからです。
とくに政策金利が大きく動き、長期金利へ影響することもよくあります。
金利についてここでは詳しく触れませんが、過去に記事を書いていますのでご覧ください。
経済指標とは?
経済指標とは、ひとことでいうと各国が発表する景気を数値化したものです。
景気を数値化したもの
その国の景気を測るためにいろいろな側面から統計をとり、それぞれ定期的に発表しているため、これらをまとめて経済指標と呼びます。
売上、GDP、雇用など色々な側面から統計をとり、それを公表することで「この国の経済は良いのか、悪いのか、今後の政策面での課題は何か」などを推し量ることができるというわけです。
経済指標の発表を受けて、たとえば景気が良くなりすぎているという場合、過熱を抑えるために金利上昇に働きます。
その結果企業はお金を借りづらくなるため業績低下が予想され、株が安くなってしまいますね。
こんなふうに経済指標が発表されると、その内容からどのような政策が期待できるかがわかり、その期待感から相場が揺れ動くわけです。
経済指標が発表される→景気が可視化される→今後の中央銀行の政策を予想する→通貨高や通貨安を引き起こし為替相場が動く
ひとことにまとめるとこのように言えるでしょう。
FXは国の通貨同士を交換することで利益を得る仕事ですから、トレーダーたるもの各国の景気の良し悪しは必ずチェックしておかないと存亡にかかわります。
ちなみに経済指標というのは国や期間が調査し統計をとっているのですが、それぞれの指標ごとに出どころは異なります。
経済指標によって相場は大きく揺れ動く
機関投資家やヘッジファンドのような大口や、大多数のマーケット参加者は経済指標の結果によって動きます。
あるいは、経済指標の予想に基づいて先行して動くこともあり、こちらのほうが圧倒的に多いです。
相場の格言にも「予想で買って事実で売る」という言葉があるくらいですが、これについて詳しくは後ほど。
とにかく経済指標の影響はときに凄まじく、それまでのトレンドラインや節目となるラインをブレイクして、トレンドの転換や加速のきっかけになることもよくあります。
ある程度の期間FXをされてきた人や、為替相場に関わっている人は「テクニカル分析で説明がつかない値動き」を何度も目にしたことがあると思います。
その大きな要因になるのが経済指標というわけです。
経済指標を理解している個人トレーダーは強い
テクニカル無視で相場が大きく動くというなら、そういった大きな影響を及ぼす経済指標について事前にスケジュールや結果のもたらす意味を理解していれば、そんなに恐れるものでもありません。
むしろこれらを理解しておくことで、それぞれの指標に対して大口がどのように動いてくるかを想像することができます。
それにしっかりついていくことさえできれば個人で大きな利益を得ることも難しくありませんね。
多くのトレーダーがテクニカルで説明のつかない値動きに翻弄され資金を溶かしているのを横目に、あなたはそこから生まれる相場の流れをお金に換えることができるというわけです。
経済指標発表時はノーポジが基本
とはいえ、そんな風にいうと「経済指標の乱高下を利用して大儲けしてやる!」と考える人が出てきそうですが、そう簡単にはいきません。
重要な経済指標発表時の値動きは、これまでの比にならないくらい激しく、ドル円でいうとほんの一瞬で1円(100pips)ほど動いてしまうことも普通に起こります。
どこまで上がるか、どこで反発するかは誰にも予想できません。テクニカルを無視して乱高下するからです。
つまり、経済指標が発表される時にベストな選択になるのは「ノーポジ」であることを忘れないでください。
経済指標の結果を受けて、大口たちがどう考えるか?をしっかりイメージすれば、その後の大きな流れに乗ることは十分可能です。
※もちろん経済指標の結果に大したインパクトがない場合は、相場がほとんど動かないこともあります。これを俗に「無風通過」といいます。
というわけでここからは、為替相場に大きな影響を及ぼす経済指標をいくつかピックアップしてお届けします。
影響力が高く重要な経済指標
大前提として知っておいてほしいのは、世界経済において最強はどこか?という話です。
言うまでもないかもしれませんが、世界経済の主導権を握っているのはアメリカであり、アメリカを中心に世界は回っています。
実際に世界中で流通する通貨をかき集めると45%は米ドルといわれており、米ドルが基軸通貨と呼ばれる理由もここにあります。
そんなアメリカの景気に関するものはかなり注目度が高いため、必ずチェックしましょう。
米雇用統計
米雇用統計は、経済指標の代名詞といっても過言ではないほど有名ですね。
これはアメリカの雇用に関する統計データの総称で、労働者数や失業数、平均時給など色々な指標が含まれます。
基本的に日本時間で毎月第1金曜日の22:30(サマータイムでは21:30)に米労働統計局から発表され、この時間帯は大口のAIによる注文が殺到し、必ずと言っていいほど大荒れしますので要注意です。
中でも重要な指標をピックアップしておきましょう。
非農業部門雇用者数
これは平たくいうと「農業以外の職についている人の数」のことです。
雇用者数(=労働者数)というのは景気を如実に表すので、この指標の数値が高いほどアメリカの景気に対してポジティブに捉えられます。
反対に雇用者数が減っている=景気は悪くなってきている(ネガティブ)と捉えられますね。
失業率
こちらはさっきの逆と考えましょう。
失業率ですので、これが増えるということはリストラにあった人が増えた、つまり景気がネガティブな方向に向かっていることを意味します。
平均時給
人件費の増減というのは景気に大きく関わります。「給料が上がると個人消費が伸びる=景気拡大」ですからね。
とくにインフレの状況を知るために大事な指標といえます。
コスト上昇により物価が上がってしまい、お給料は上がらない…というパターンのインフレは、ただただ国民が苦しむだけの「悪いインフレ」と呼ばれたりします。
米雇用統計がこんなに重要視される理由
アメリカの中央銀行(FRB)が政策金利を決める際、労働市場の動向をかなり重要視しています。
なぜかというと、FRBは彼らの使命のひとつとして「雇用の最大化」を掲げているからです。
FRBのウェブサイトにも「米国の金融政策は雇用の最大化と物価安定のために行動している」と明記されています。
つまり雇用統計の結果はFRBの今後の政策方針に大きな影響を与えるというわけですね。
政策金利が為替相場に及ぼす影響について、詳しくは政策金利についての記事をご覧ください。
ADP雇用統計
こちらもアメリカの雇用に関わる統計ですが、先ほどの米雇用統計とは発表元もスケジュールも異なります。
ADP雇用統計は、アメリカの給与計算代行サービス会社であるADP社が公表する指標です。
給与計算を行っている民間企業が自社のデータを元に算出しているため、ある程度の信頼性が担保され、注目度の高い経済指標の1つになりました。
こちらは米雇用統計の2日前に発表され、米雇用統計の前哨戦のような位置づけになっていますね。
注意しないといけないのは、米雇用統計とは集計期間も異なるということです。
米雇用統計は集計に時間がかかる都合上1ヶ月遅れのデータを発表していますが、ADPは民間企業なので集計もスムーズに行い、最新のデータを反映しているということです。
データの出どころも違えば集計期間も違うため、米雇用統計と乖離が出ることもあります。
とはいえ米雇用統計を予想する手がかりとしてかなり重要な指標なので、ADP雇用統計が発表される時点で相場が大きく動くこともあります。
あくまで発表を受けて市場参加者がどう捉えるか?が大事ですので、一概にこうだからドル高になる、といえるものではありません。
無理にトレードをせず静観するのがベストだと思います。
米消費者物価指数
こちらは物価が上がっているか下がっているかを示す指標です。かんたんに言うと、お店に売られている商品の値札の価格がどうか?というものです。
毎月中旬頃に発表され、プラスの数値であればインフレ、マイナスの数値であればデフレになります。
現在のインフレレベルをダイレクトに示しているため、非常に重要な指標の1つです。
ただし単にインフレかデフレか、という見方だけではなく「前回の数値に対して上がっているか下がっているか?」が重要視されます。
たとえばインフレ局面では「前月よりもインフレのスピードは加速しているのか?」が大事ということです。
インフレが進むと、FRBは利上げを行います。利上げするということは、米ドルを持っているとたくさん金利がもらえるようになるので、ドルが買われてドル高になりますよね。
ただし、利上げは景気にブレーキをかける役割を持っているので、インフレは減速していくと期待されるわけです。
そこで消費者物価指数の数値も減ってきているとなるとFRBの政策に効果あり、と認められるわけですが、もしも消費者物価指数の数値がさらに上がるようであれば…
「現状の利上げでは足りない」ということでさらなる利上げが意識されます。こうなるとさらなるドル高要因となりますね。
こんなふうに「これまでのFRBの政策に対して消費者物価指数がどう動くか」が重要になるため、FRBがどんな政策をとっているのか?という背景情報もわかっておく必要があります。
ただし、経済政策を行ってから実際に世の中の景気に反映されるまでにはタイムラグがあります。
ジワジワと効いてくるものなので、すぐに結果が出ないからと言って「効果がない」とは限りません。金利の調整は中央銀行の手腕が大いに試されますね。
米小売売上高
米小売売上高は、商品がどれだけの金額売れたか?を表す数値です。毎月第2週頃の発表です。
商品の値札とは違い「小売売上高が伸びているか」どうかを示していますが、こちらも景気を測る上で重要です。
当然、売上がたくさん上がっている=景気が良いということになりますので、数値が高ければドル高要因になります。
ただしこれも消費者物価指数と同様、前回に比べて上がっているか下がっているか?ということが重要視されますので、FRBの動向含め周辺知識もしっかり入れておきましょう。
米GDP
GDPは、小学生や中学生の頃に社会科の授業で習った記憶がある人も多いでしょう。
「国内総生産」を表す言葉で、ひとことでいうと「その国で生み出されたものを金額にするといくらになるか」ということになります。
GDPは経済成長率を表しますので、高ければドル高、低ければドル安という相関です。
GDPはアメリカに限らず、各国の経済成長率を表す重要な指標の1つですので、ぜひ各国のGDPに注目してみてください。
GDPは四半期ごとに発表され
- 1月〜3月
- 4月〜6月
- 7月〜9月
- 10月〜12月
と集計期間が3ヶ月毎に区切られています。
そしてそれぞれの期間が終わった翌月に速報値として発表されます。
この速報値が相場に大きな影響を与えるため、注意すべきは1月、4月、7月、10月になりますね。
その後段階を経て改定値→確定値と発表されますが、大きな修正がない限りは大して相場は動きません。
GDPは速報値に注意!ということを覚えておきましょう。
米ISM製造業景況指数 / 米ISM非製造業景況指数
これはISMというアメリカの民間団体が、製造業や非製造業(サービス業)を営む会社の担当者にアンケート調査を行い、それを集計して算出した指数です。
この指数は50がプラマイゼロで、それより大きいと景気がよくなっている、小さいと景気が悪くなっていると解釈してください。
発表スケジュールは、製造業が毎月第1営業日の夜、非製造業が毎月第3営業日の夜です。
米貿易収支
これは輸入と輸出のバランスを表したデータです。
輸入すると国外にお金を支払うことになりますし、輸出すると国内にお金が入ってくることになります。
メルカリで例えるとわかりやすいですね。
メルカリを使って買い物する(=輸入)場合、家計からお金は出ていきますが、不用品をメルカリで販売する(=輸出)場合はお金が入ってきます。
買い物した金額よりもメルカリで販売した金額のほうが高ければ収支はプラス、逆であれば収支はマイナス、ということになります。
こちらも以前からどれくらい収支がプラスになったか、マイナスになったかが重要でしょう。
GDPと同じく速報値〜確定値の流れがありますが、やはり速報値が最も注目されます。
国によって異なりますが、アメリカの場合は毎月初旬に発表されます。
重要経済指標まとめ
ここまでに紹介した経済指標をまとめておきましょう。
経済指標 | スケジュール | 相場への影響 |
---|---|---|
米雇用統計(ADP含む) | 毎月第1金曜日,その2日前 | 雇用者数・時給:高ければドル高要因 失業率:低ければドル高要因 |
米消費者物価指数 | 毎月中旬 | 高ければドル高要因 |
米小売売上高 | 毎月第2週ごろ | 高ければドル高要因 |
米GDP(速報値) | 1月,4月,7月,10月 | 高ければドル高要因 |
米ISM(非)製造業景況指数 | 毎月第1営業日,第3営業日 | 高ければドル高要因 |
貿易収支 | 毎月初旬 | 高ければ通貨高要因 |
経済指標の結果を受けて相場が動くのはどんなとき?
最後にとても大切なことをお伝えして終わりましょう。
経済指標を受けての市場の反応は、その時々によって全然変わります。
でも、発表後の相場の乱高下になんの規則性もなく、ただただ大衆のパニックによって引き起こされたものかというとそうでもありません。
「どうしてそう動いたのか?」をきちんと説明できるものがほとんどです。
指標発表時にはすでに「織り込み済み」の可能性も
先程も書きましたが、相場の格言に「予想で買って事実で売る」というものがあります。
経済指標が発表される前に、各市場関係者の予想などをまとめて「予想値」というものが掲示されるんですね。
例えばその予想がアメリカの経済にとって大きくポジティブな内容であれば、先行してドルが買われるわけです。
そして経済指標発表時、その予想に近い結果が出た場合、多くの市場参加者にとっては「まあそうですよね」と、想定通りの結果になるわけです。
期待感でドルが買われ、上がりきったところで発表があった場合、経済指標の結果がポジティブだったにもかかわらず、それ以上ドル高になる材料がなければ利益確定の売りが出てきます。
経済指標の数値がポジティブな結果だったにもかかわらずドルが下落するという、一見すると矛盾するような動きを見たことがある人も多いのではないでしょうか。
これは「経済指標は信用ならない」ということではなく、背景にそういった思惑があったということです。
市場関係者の予想など、結果が出るまでの間の動きにも注目しておくと慌てずに済むでしょう。
発表直前に値動きが止まるのは「嵐の前の静けさ」
ある程度FXを経験している人であれば、発表直前になって値動きがあまりなく、相場の方向感も定まらずにローソク足が一定レンジを彷徨っているのを見たことがあるでしょう。
これは発表直前ということで、大口たちが息を潜めて様子見をしているときに起こる現象です。
それを見て「今日は大した値動きはなさそうだな〜」とゆめにも思ってはいけません。嵐の前の静けさであることを理解し、すぐにポジションの手仕舞いを考えましょう。
為替相場はワンピースのグランドラインみたいなものです。
さっきまで天候は晴れ、風もほとんどなく航海日和だったのに、いきなり暗雲が立ち込め、とんでもない荒波に変わることもあります。
ログポースのログを溜めるように、ファンダメンタルズがわかるまでトレードせず待つことです。
経済指標の発表内容にサプライズはあったか?
前項と被る部分はありますが、各経済指標には、前回値の他にも、発表前から公開されている「予想値」があります。
市場参加者の予想内容や世界情勢などいろんな要素を考慮して予想値が公開されるとは思いますが、この予想に対して上か下か?でも市場の反応は変わります。
予想よりも大きくかけ離れた数値が出た場合にはものすごく大きく動きますし、そうでなければ大して動かずに終わる、ということもあります。
前回値や予想値を受けて、どんな結果が出たか?でサプライズの度合いは全く異なってくるので、単に結果の数値だけを見るのではなく、それがどのような意味合いを持っているかを意識しましょう。
為替相場が大荒れしているときには「市場参加者がビックリするような数値だったか」をチェックして、もしそうだった場合は結果を見て、このあとの相場の流れはどちらに引っ張られそうかを考えてみてください。
すべてはFRB次第
経済指標が発表されたから為替相場が動くのではなく、経済指標の結果を受けて大口投資家たちが何を思うのか?
さらに掘り下げると、経済指標の結果を受けてFRBは今後の政策をどう考えるだろうか?
全てはここに集約されるわけです。
このファンダメンタル分析に関する連載の金利の項目でも触れましたが、為替相場を動かす一番の要因は政策金利といっても過言ではありません。
そしてそれを決めているのはFRBです(アメリカの場合)。
つまり、FRBが現在どんな政策をとっていて、今回の経済指標ではその成果が見える形になったのか?FRBが期待した結果になっているか?が非常に、非常に、非常に重要なのです。
発表前からいくつかのパターンでシミュレーションをして臨みましょう。
↑一例ですが、こんなふうにFRBの気持ちになって考えてみるのです。
頭の中でしっかりシミュレーションができていれば、経済指標の発表を待つのが楽しみになりますよ。
自分のシミュレーション通りに相場が動いてくれたときには言い表せない快感が得られます(笑)
かなりハイリスクなのでノーポジを貫くのが賢明
ここまで色々と大切なことを伝えてきましたが、この記事を通して一番大事なことは「経済指標発表時はノーポジを貫くのがベスト」ということです。
単にボラティリティが上がるだけでなく、テクニカル的に強い根拠のある水平線やトレードラインを抜けてくることが平気であるのが経済指標です。
場合によっては、それまでのトレンドを否定して転換することもありますので、注意が必要です。
発表時の瞬間的な値動きは捉えられなくても、一旦様子をみて、結果を受けてFRBがどのような政策をとってくるかを考えること。
今後の大きな流れがドル高になるのか、ドル安になるのかを分析することが先決です。
それさえできれば、あとはそのファンダメンタルに順張りでトレードをするだけで結果はついてきます。
- 経済指標に乗っかったトレードはしない
- 結果を受けてその後の流れを分析する
この2点を意識して、ぜひ次の経済指標に向けてシミュレーションしてみてくださいね!
ファンダメンタルズに関するまとめ記事はこちらです↓